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みほー3 ちょび髭マスターの声はかすれながらも心を揺さぶる [みほ]


 とりあえず、私たちふたりは昔は羽振りが良かった湘南は藤沢にあるライブバーに向かった。
駅の表側ではなくなんとも寂し気な裏通り、ラーメン屋の隣にその店はあった。

 歌って、笑って、仲間もできちゃう ライブバー「みゆき」。

 私は速攻で踵を返したが、蛙子に腕をつかまれた。

 「お願いよ、みほ!とにかく、聴くだけでもいいらしいの。ね、ね、ね!」
 
 「みゆきよ、みゆき、まんまじゃないの。嫌、たたでさえこのくらい世の中で、みゆきは嫌!」

 「平気、平気!ほら、ファイト!」

 ピアニストならではの握力に引きずられて、蛙子と私は「みゆき」に入ってしまった。薄暗いゴキブリだらけのタバコが煙い昭和な店内。蛙子も驚いたのか「ゲロゲーロ!」と下を向いている。
 ちょび髭、ギョロメ、かまきり。お店には3人の男、いやっ、爺ぃがいた。しかも普通のサラリーマンではない、異様なカーボーイハットがもろうざ。

 「あら、お若い方が来てくれるなんて嬉しいわ。いらっしゃい!」

 ちょび髭がマスターらしい。う。ピヨちゃんエプロンかよっ!ピヨちゃんエプロンするのかっ!おめぇがっ!

 「あ。いえ。ここ、あのライブバーとかいう・・・」

 「ええ、そうよ!あなたたち、歌う方、聴く方?」

 どSな感じのギョロメが高い声で叫ぶ。目が落ちそうで怖い。

 「あぁ、あの今日は見学に、ね!」

 「う、うん」

 「じゃ、500円見学料と飲み物オーダーしてくれるかな。おたくらラッキーよ、こちらの細い方、ダンディさん、すごくギターが上手なのよ。後はオープンマイクになれば、お店の常連さんがどっ!と来るから楽しんでいって」

 「・・・はい」

 とりあえずテーブル席に座る。ジンでも飲みたかったが、ふたりとも安全そうな珈琲にする。
やはり喫茶店の匂いは珈琲豆を挽く匂いだ。なんだか落ち着く。珈琲がなかなかうまいので少し安心した私は余計なことを聴いてしまった。

 「あの、こちらのお店は、みゆき、というくらいですから、中島みゆきのファンなのですか?」

 「ギラリンチョ!」ギョロメが睨む。

 「何が聴きたいの?」

 「あっ、いや。聴きたい、とうか、ねぇ」

 蛙子にふると、即答。

 「蕎麦屋」

 「ふーん、いいとこ突くじゃないの。じゃ特別に一曲!」



 こ、こ、これがカラオケではないフォークか!ちょび髭マスターの声はかすれながらも心を揺さぶる。ダンディのギターもどこか切ない。「やべぇかも・・・」

20140203003159.jpg
(写真はイメージです)。
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